#ビジネスコミック界隈|経営者は、なぜワンピースとキングダムを読むのか?

経営者が漫画を読む「意外な」理由
多くのビジネスパーソン、特に経営者の間で、漫画『ONE PIECE(ワンピース)』や『キングダム』が熱烈に支持されているという話がある。「経営者が漫画なんて読んでいる暇あるの?」と思う人もいるだろう。けれど、実は忙しい経営者ほどこれらの作品を真剣に読み込む。その理由は、単なる娯楽ではなく、人生を物語に変える“フロンティアの力”が詰まっているからだ。
『ONE PIECE』──夢のリレーと折れない心
主人公・ルフィは「海賊王になる」という揺るぎない夢を掲げ、仲間を信じ抜く。ゾロの剣技、ナミの航海術、サンジの料理など、それぞれの能力を尊重し、危機には命を懸けて守る。その姿勢は、多様な才能を束ねる経営者にとって理想のリーダー像といえるだろう。
さらに特徴的なのは、麦わらの一味全員がそれぞれ夢を持ち、その夢が仲間の物語を推進する「リレー」となっていることだ。誰か一人の夢が道を切り開き、他の仲間が背中を押す。これを企業に置き換えれば、社員一人ひとりのキャリアや志が尊重され、組織の推進力につながる構造と重なる。
また『ONE PIECE』には、絶望や挫折の場面が数多く描かれている。大切な仲間を失う場面や、圧倒的な敵に敗れる瞬間。それでも諦めずに立ち上がる姿は、長い航海=ビジネスの持続に欠かせない「折れない心」の象徴であり、経営者に強い共感を呼び起こすのだ。

『キングダム』──敵からも学ぶ大義と戦略
一方『キングダム』では、主人公・信が下級兵士から将軍へと成長し続ける。現場を知り、失敗を糧に進む姿は、経営者が現場感覚を持ちながら試行錯誤する姿と重なる。 物語を牽引する秦王・嬴政(えいせい)は、「中華統一」という壮大な大義を掲げる。その理念は個人の利益を超え、人を動かす力となり、困難な挑戦をも可能にする。経営においても、数字を超えたビジョンが組織を導くことを示しているといえる。
また、王騎(おうき)や李牧(りぼく)といった異なる強みを持つ将軍や軍師が登場し、戦場で知略を競い合う。ここで重要なのは「敵からも学ぶ」視点だ。李牧は秦にとって脅威だが、その知略が信や嬴政を鍛え、さらなる成長を促す。競合の存在が企業を進化させるのと同じ構造であり、経営者に「なるほど」と思わせる示唆を与えている。

漫画がもたらす3つの効用
1.物語で複雑な概念を直感的に理解できる 戦略や人間心理を、具体的なシーンを通じて吸収できる。
2.共感力が磨かれる 多様な立場や感情を疑似体験し、相手を理解する力が養われる。
3.思考の柔軟性が身につく 常識を覆す展開に触れ、固定観念から解放される。
漫画は経営者の「成長投資」
経営者にとって漫画を読む時間は、単なる息抜きではない。新しいビジネス発想の源泉となり、心をリフレッシュさせ、人間関係を深めるコミュニケーションツールにもなる。むしろ、それは次の一手を考えるための“創造的休息”といえるだろう。
ページをめくるたび、自分の中のフロンティア精神が呼び覚まされ、「もっと先へ」という衝動が湧き上がってくる。その感覚こそ、経営に不可欠な原動力である。

もし挑戦の炎が小さくなってきたと感じたら、物語のページを開いてみよう。そこには、限界を超えて世界を広げるためのヒントが、ロマンティックに、そして力強く描かれていることだろう。
記事:研究員 佐々木康弘
【主な参考資料】
・尾田栄一郎『ONE PIECE』(集英社)
・原泰久『キングダム』(集英社)
※本記事は上記資料に加え、関連メディアの公開情報を対象としたデスクリサーチ(編集者調べ)に基づき作成しています。