【レポート】社会課題解決を独自の知的財産として再定義する「ソーシャルIPフォーラム」開催

株式会社ワールドエッグスは、2026年2月18日(水)、日本経済大学 STATIO(東京都渋谷区)にて「ソーシャルIPフォーラム」を開催いたしました。

会場には、企業の経営層、メディア関係者など、新たな経済循環の構築を模索する140社を超える意思決定者が集結。社会課題解決をボランティアやCSR活動にとどめず、経済的自立を伴う持続可能な事業へと昇華させるために、新たな概念として独自の知的公共財「ソーシャルIP」を提唱し、その可能性と構想について熱い議論が交わされました。活発なやりとりの中では「ソーシャルIP」を軸として、ワールドエッグスが海洋分野で構想している4つのプロジェクト、非営利活動に依拠しがちな社会活動を「経済圏」へとアップデートするための手法、エンタメコンテンツへの展開可能性といった幅広いテーマが扱われ、会場を巻き込んだ熱狂的なイベントとなりました。

本記事では、約2時間にわたって活発な議論・提案が交わされたフォーラムの模様を、詳細なレポートとしてお届けします。

「“IP=コンテンツ”、ではない」社会活動を昇華するソーシャルIPとは?

フォーラムの冒頭、まず登壇したのは、本フォーラムのナビゲーターであり弊社代表の波房克典と、リアクターとして放送作家の田中イデア氏。オープニング・トークは「なぜ、いまソーシャルIPなのか」と題し、IPの正体と、社会活動への転用について迫りました。

一般的に「IP(Intellectual Property)」といえば、アニメやゲームなどのキャラクタービジネスを想起しがちです。しかし波房は、エンターテインメントの世界におけるIPの本質を「人の熱狂を生み、動かし、それを続けさせる構造」と定義しました。成功しているIPには必ず以下3つのレイヤーが存在すると語ります。

1. ライツ(意味の定義):ひとことで言える「何の話か」という世界観
2. コンテンツ(参加体験):映画やイベントなど世界観に触れる入口
3. 経済圏(自律した循環):「好き」が行動とお金に変わる仕組み

波房は、「多くの社会活動や公共プロジェクトは、真ん中の『コンテンツ(活動)』だけを一生懸命やっているが、そもそも『なぜやるのか(ライツ)』が言語化されておらず、『どう続けるか(経済圏)』の設計がなされていないため、良いことなのに続かない」と指摘しました。人は、「正しさ」だけでは動きません。「推せる世界観」があるからこそ、動くのです。

そこで提唱されたのが、社会課題解決を独自の知的公共財として再定義する「ソーシャルIP」という新概念です。その要件は以下の3点です。

ソーシャルIPの要点

  • ライツ(意味を⼀⾔で束ねる):活動が持つ独自の世界観を定義し、社会的な存在意義を授けること。
  • コンテンツ(参加体験をつくる):義務感ではなく、企業や個人が主体的に関わりたくなる体験を設計すること。
  • 経済圏(産業として広げる):外部資本の注入に頼り続けるのではなく、独自の経済合理性に基づき持続する仕組みを構築すること。

 このモデルの成功例として挙げられたのが「オリンピック」と「お遍路」です。

「オリンピックは『平和の祭典』『ダイバーシティ』という世界観(ライツ)があり、『国を背負って戦う・応援する』という熱狂的な参加体験(コンテンツ)があり、そこに企業や国が動く巨大な経済圏が回っています。

また、1200年続く『お遍路』も、空海という天才が作り出した『壮大なスタンプラリー』であり、思想が文化となり地域経済を回し続けている、日本最古級のソーシャルIPと言えます」(波房)

この構造を現代の社会課題にどう適用できるかを探る旅の始まりとして、本フォーラムは幕を開けました。

ワールドエッグスの構想する海洋・流域分野のソーシャルIP

セッション①は「海洋・流域テーマにおけるソーシャルIPの創出」というテーマで、具体的な「構想」段階のプロジェクトを例に、日本に眠る公共財をいかにソーシャルIP化するかという議論が展開されました。

登壇者

ゲスト:池ノ上 真一氏(北海商科大学 教授 / 世界遺産・文化資源専門)
    嶋田 俊平氏(株式会社さとゆめ 代表取締役社長)
    中井 徳太郎氏(公益財団法人三千年の未来会議 代表理事 / 元環境省事務次官)
進行 :波房 克典、田中 イデア

ここでは、4つの具体的なソーシャルIP構想が波房より発表されました。

1. 日本百海道(Nihon Hyakkaido)

日本全国に約3300基ある「灯台」を主役にした構想です。灯台は世界共通のルールで建設されながら、その足元にはその土地固有の歴史や物語(ローカル)があるという「二面性」を持っています。

波房は、灯台を点として見るのではなく、かつての北前船の航路などのように「線」でつなぎ直し、海の上に道を作る「日本百海道」を提案しました。

池ノ上氏は昨年9月にスコットランドの灯台を訪れた話を例に挙げ、「灯台は日本人と海の関係性を伝える入り口になり得る」と評価。中井氏も、「灯台は日本列島の交流の結節点であり、灯台に意味を見出して想いを込めて面白がることは、日本の良さを再確認することにつながる。波房ワールドでやっていってほしい」と期待を寄せました。

北海商科大学 教授 池ノ上 真一氏

2. Folktale Arts 1000

日本の「昔話(民話)」を再定義するプロジェクトです。昔話は単なる子ども向けの物語ではなく、その中に先人たちが残した「サステナブルな知恵」や「教訓」などが含まれています。

このプロジェクトでは、日本各地の1000の昔話を「ジャパン・アート」としてアニメーション化し、ユネスコの「世界の記憶」登録を目指します。さらに、嶋田氏との連携により、東京都檜原村などで「物語に泊まる」体験を提供するホテル構想も披露されました。

嶋田氏は、「若い世代はモノ消費より、その土地でしかできない体験や関わりに価値を感じている」とし、物語を地域に再実装する観光の可能性を示唆しました。

株式会社さとゆめ 代表取締役社長 嶋田 俊平氏

3. 海食(UMISHOKU)

「和食」を海の視点から捉え直す試みです。ユネスコ無形文化遺産に登録された和食の特徴とされる「和食五法(生(切る)・煮る・焼く・蒸す・揚げる)」に対し、5つの海の視点(保存や加工の知恵)を加えた「海食十法(和食五法+締める・醸す・干す・燻す・漬ける)」を提唱。

魚の命をいただく作法としての「魚をさばく」体験の復権や、「未利用魚」を「価値がない魚」という意味ではなく大量流通のルールに合わなかったものと捉え、その土地で食べる価値に変えるなど、食文化の解像度を高める議論がなされました。

池ノ上氏は、この取り組みを「文化的価値」だけでなく、資源枯渇などの課題に対する「共生の場」としての「文明的価値」があると評しました。

4. Water Scope Japan

最後は「水」の視点です。「◯◯県民」という行政区分ではなく、「◯◯川流域の住民」というアイデンティティを持つことで、上流と下流の関係性を変える構想です。

中井氏は、水循環を人間の「毛細血管」に例え、サステナブルを考える際は地球システムにおける血流である水に着目することの重要性を指摘。地球環境を「生命系の視点」で捉える視点を持つ本プロジェクトの重要性を強調しました。また、横浜での国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が「世界へ発信する絶好の機会になる」とコメントしています。さらに、天竜川流域のイベントで伐採したヒノキや杉の中から水が吹き出したエピソードを交えながら、水の循環を「for Life(自分事)」とし、森里川海のつながりを実感する意義を語りました。

嶋田氏は、自身が関わる山梨県小菅村(多摩川源流)の事例を紹介。「源流の村」と言い続けることで下流(東京)との関係性を築き、ブランド化に成功した実績を挙げ、圏域の再設定が地域課題解決につながることを示しました。

セッション①統括

中井氏はセッションの総括として、「論理(大脳新皮質)だけでは人は動かない。美味しい、気持ちいい、感動するといった『感性(古い脳)』に訴えかける『御利益』のある実践こそが、社会を変えるムーブメントになる」と力強く語りました。

公益財団法人三千年の未来会議 代表理事 中井 徳太郎氏

「社会貢献」を“稼いではいけない呪縛”から解放する

続くセッション②では、「「社会貢献経済圏」を生み出すための仕組みや価値づくり」として、ソーシャルIPを「企業が本気で投資する事業」にするための、経済的な仕組みづくりに焦点が当てられました。

登壇者

ゲスト:亀山 淳史郎氏(株式会社サイニング 代表取締役 / クリエイティブ・ディレクター)
    佐藤 明氏(株式会社バリュークリエイトパートナー / 投資家)
    佐藤 正隆氏(株式会社コングラント 代表取締役 / 寄付DX)
進行 :波房 克典、田中 イデア

「見えない価値」を指標化する

議論の出発点は、「価値ある活動が経済合理性と合わない」という課題です。波房は、かつて「CO2」が可視化され取引単位となったように、文化や教育といった分野も「指標化」することで市場が生まれるのではないかと提起しました。

企業の生存戦略としてのソーシャルIP

投資家の視点から佐藤明氏は、「企業が定款にパーパス(存在意義)を明記し、長期的な視点で社会的インパクトを測定・説明する努力が必要」と語りました。短期的な利益だけでなく、5年、10年先を見据えたレピュテーションや人材採用への効果を「ストーリー」として語れる企業に、人やお金が集まる時代になっています。

株式会社バリュークリエイトパートナー 佐藤 明氏

クリエイティブによる記号化

亀山氏は、CO2削減量をスコア化して商品に表示する「デカボスコア」の事例を紹介。消費者が商品を選ぶ際、まるでそのブランドの姿勢に「投票」するかのように購買行動を行う若年層のデータに触れ、「社会的な合意形成のために、価値を分かりやすい『記号(アイコン)』や『体験』に変換するクリエイティブが重要」と述べました。

株式会社サイニング 代表取締役 亀山 淳史郎氏

「Non-Profit」からの脱却

寄付DXを推進する佐藤正隆氏は、「NPO=ノンプロフィット(非営利)」という言葉が持つ、「稼いではいけない」という誤解や呪縛について言及しました。アメリカでは2000年代にこの課題を乗り越え、市場が拡大しています。日本でも「ソーシャルインパクト・オーガニゼーション」として再定義し、しっかりと収益を上げながら社会課題を解決する組織が評価される土壌を作る必要がある、と力説しました。

株式会社コングラント 代表取締役 佐藤 正隆氏

セッション②統括

セッションの最後、亀山氏から「ソーシャルIPとは、Intellectual Property(知的財産)であると同時に、Intellectual Public Goods(知的公共財)である」という重要な示唆がなされました。「徳を積んで損する社会」から「徳を積んで得する社会」へ。社会貢献経済圏の確立に向けた具体的な道筋が見えたセッションとなりました。

波房が追求する、壮大なエンターテインメントと社会活動との融合

セッション③では、「エンタメコンテンツのソーシャルIP化について」をテーマに、エンターテインメントがいかに社会を動かすかについて、波房が25年の歳月をかけて構想してきた壮大なプロジェクトが発表されました。

登壇者

ゲスト:小栗 徳丸氏(世界コスプレサミット実行委員長)
    齋田 友徳氏(ハウンズトゥース・ジェイピー 代表 / ゲームプロデューサー)
    大木 秀幸氏(株式会社interfm 代表取締役社長)
進行 :波房 克典、田中 イデア

2600年の架空史「ラトニアサーガ」

波房は、「刀剣乱舞」が日本刀文化を、「ゴールデンカムイ」がアイヌ文化への関心を爆発させた例を挙げ、エンタメが持つ「コンテクストを翻訳する力」を強調しました。

その実践として発表されたのが、オリジナルIP「燈の守り人(あかりのもりびと)」および「ラトニアサーガ」です。

驚くべきことに、波房は「ラトニアサーガ」のために、架空の世界の2600年分の歴史と国家設定を25年前から私財を投じて構築していました。「人は善悪ではなく、信じるものの違いで争う。その『信じているもの』の正体とは何か」という哲学的な問いをエンターテインメントに昇華させる試みです。

異業種との共創

波房の熱量に巻き込まれる形で、各界のプロフェッショナルが参画を表明しています。

23年前に名古屋で始まった“世界コスプレサミット”を通じて、日本発のカルチャーを世界へと広げ続けている小栗氏は、「8月1日開催予定の世界コスプレサミットにて『燈の守り人』の朗読劇が予定されている」と話し、「灯台を擬人化していること、さらには大物声優が生で朗読するのはエンタメの世界では非常にエモく、最高のエンターテインメントです」と語りました。今後はさらに、2.5次元舞台を手がけるネルケプランニングさんとのコラボも予定しています。

世界コスプレサミット実行委員長 小栗 徳丸氏

続いて齋田氏は、膨大な歴史設定を活かした「神の視点」でプレイするインディーゲームの開発を示唆。大木氏は、interfmを通じて音楽とグローバル展開を掛け合わせたメディアミックスの可能性を語りました。

会場の参加者には、まだ世に出ていない「ラトニアサーガ」の漫画3巻分が配布され、波房は「今日この場にいる皆さんは、この物語を社会に広げていく共犯者です」と呼びかけました。

ワールドエッグスが実現する「ソーシャルIPの社会実装」

9人の有識者と熱い議論が交わされた全セッションを終えて迎えた、波房、イデア氏によるエンディング・トーク。
イデア氏は、「社会活動は『義務』ではなく、自分が主人公になって主体的に関わることで面白くなることが分かった」と感想を述べました。

最後に波房より、株式会社ワールドエッグスの「第二創業」が宣言されました。
これまで語られてきた数々の構想を単なる夢物語で終わらせず、戦略設計から社会実装、そして経済的な自立までを完遂する「ソーシャルIPデベロッパー」として事業を展開していく決意表明です。

波房はスクリーンに、「個人の悩みを社会の言葉(社会言語)に書き換える」という図を示しました。

例えば「待機児童」という言葉が生まれたことで、それまで個人の悩みだった「保育園に入れない」という問題が、社会構造の欠陥として認識され、国を動かす議論になりました。「マヨラー」という言葉が、偏食というネガティブな要素を堂々と語れる個人の文化に変えました。

「ソーシャルIPづくりとは、生活者の視点や潜在的な価値に名前を与え、『社会言語』を作り出すプロセスそのものです。それが旗印となり、当事者のコミュニティが生まれ、やがて社会の新しい常識になっていく」

ワールドエッグスは、この「ソーシャルIP」という新たな武器を携え、企業や自治体の皆さまと共に、あらゆる社会テーマの実装に挑戦してまいります。

最後に

熱気に包まれたまま幕を閉じた本フォーラム。
終了後の名刺交換会では、会場のあちこちで新たな「共犯関係」が生まれる活発な交流が続きました。

ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。
これからのワールドエッグス、そして「ソーシャルIP」の展開に、どうぞご期待ください。

開催概要

名称:ソーシャルIPフォーラム
日時:2026年2月18日(水)17:30~19:30
場所:日本経済大学 STATIO(東京都渋谷区)
主催:株式会社ワールドエッグス
共催:公益財団法人三千年の未来会議