「海と灯台サミット」の舞台裏

こんにちは。ワールドエッグスの山口健です。

私たちワールドエッグスは、(一社)海洋文化創造フォーラムとともに「海と灯台プロジェクト」を推進しています。

灯台を訪れる人を増やし、海や地域への関心を高めることを目的に、全国の灯台を利活用する団体の支援やイベント実施、番組制作、作家との連携など、多岐にわたる事業を行っています。

今回は、その中の一番の盛り上がりポイント「海と灯台サミット2025」について書いていきます。

イベントの全体像は別途まとめていますので、ここでは10月21日(火)11:30~13:30に開催された「海と灯台サミット シンポジウム」に絞り、このイベントがどのようにできあがったのか、企画側の視点から“中の人の想い”を中心に記してみたいと思います。

もちろん、企画は私一人で考えたわけではありません。

多くの方にアイデアをいただき、力を借りて形になったものです。

私自身が直接生み出した部分など、ミジンコほどのもの。関わってくださった皆さまのお陰であり、とても感謝しております。

旅×灯台というテーマ

今年のシンポジウムでは、「旅×灯台」というテーマを軸に構成しました。

そして、そのうえで私たちが独自に行った調査によって見えてきた、いくつかの事実と課題をもとに肉付けしていきました。

  • 灯台には、少なくとも年間100万人以上の人が訪れている。
  • 全国調査では、約52%の人が「一度は灯台を訪れたことがある」と回答。
  • しかし、多くは“一度きり”の来訪で、リピーターが少ない。
  • 灯台を訪れる人々を分析すると、「海沿いの移動を楽しむ層」が一定数存在する。
  • 移動のハードルを「体験の一部」として活かせば、より多くの人が灯台を訪れる可能性がある。

この整理から導かれたのが、「海沿いを移動する人々の顕在化」と「灯台の魅力の再整理」という二つの課題でした。

そして、これを発信する場として、今回のシンポジウムが生まれました。

「海風トラベラー」という記号

「海風トラベラー」という言葉は、いわば“山ガール”のように、灯台や海沿いの移動を楽しむ人々を可視化するための記号です。

今後もこの言葉をさまざまな場で使い、共感や参加を呼びかける“ソーシャルムーブメント”として育てていければと思っています。

予想外の嬉しい出来事としては、登壇いただいた伊沢拓司さんが「自分も海風トラベラーだ」と話してくれたことです。

事前打ち合わせなどができなかったので、どんな感想を持つのか正直ドキドキもしていましたが、この言葉が自然に届いてくれたことがとても嬉しかったです。

彼のように、自認はできていない(そもそも新しい言葉なので、そういう概念があることすら知らない)けど、「言われてみれば自分も『海風トラベラー』かもしれない」と感じる人は、意外と多いのではないでしょうか。

(事前の調査からもある程度母数が大きいということも出ています。)

海と聞くと、海水浴やアクティブなイメージが未だに強いですが、こういった海との関わり方や視点もあるということを改めて発見しました。

テーマ①:「海風トラベラー」は灯台を目指す

移動体験をテーマにしたこのセッションでは、移動体験にまつわるコンセプトの話を出来る方、実務で移動にまつわる体験提供を行っている方、消費者的な目線でも語れるプロフェッショナルな方に依頼をしました。

それぞれの視点や立場から、移動を“楽しみ”として語ってもらえたと思っています。

コスパ・タイパ的な価値観では、移動はどうしても“ムダ”と捉えられがちです。

けれども、楽しみ方を知ると、移動そのものが旅の本質になるということを改めて実感しました。

私自身も、かつては「移動=悪」、「近い=正義」と思っていました。

灯台はまさに、そうした移動の先にあり、移動と切り離せないものです。

しかし、灯台を訪ねるうちに、“どう楽しむか”という発想に変わり、道中の発見を探すようになりました。

また、今回の登壇者のお話を聞くと、本当にそうだなって思いますし、「バイクの免許でも取ろうかな」と企画準備の段階で何度も思いました。

灯台に行くまでは、公共交通機関がほぼ難しく、本当に時間がかかり、それがハードルになっています。

そのハードルを超えるだけの体験を灯台に用意しなければいけないと今までは考えていました。

移動を旅の一部、「灯台」にまつわる体験として見つめ直す――それが今回の大きな気づきでした。

テーマ②:「#灯台時間」――海の体験をアップデートする試み

移動が楽しくても、灯台が楽しくなくては、誰も来てくれません。

他の楽しい体験を求めて違う場所へ移動をしてしまいます。

そこで、次に掲げたのが、もう一つのキーワード「灯台時間」です。

この言葉は、昨年の「海と灯台ウィーク」で一般公募によって生まれたもので、わかりやすくキャッチ-で、私たちもとても気に入っています。

「『灯台に行ってみたくなるキャッチコピー』入賞作品を発表します」で選ばれたワード「灯台時間」

“灯台で過ごす時間”の魅力をどう表現し、どう深めていけるか。

私自身も日頃、疑問に思っていたことをこの機に訊きたく、今回は3つの分野の専門家・有識者を招き、それぞれの視点から構成しました。

心理学的な観点

「なぜ、海を眺め、灯台でぼーっとするのか」
自分自身もそうですし、そういったことをしている人を何度も見かけたことがあります。
しかし、何故なのかという理由まではわからないまま…

歴史好きな人の視点

年月に違いはあれど、歴史的建造物としては共通点があると思われるお城。
そして、お城界隈は灯台の10倍近い盛り上がりを見せています。
多くの人が訪れているが、いったいどういったポイントを楽しんでいるのだろうか…

食と灯台の相性

全国の灯台を訪れると多種多様な美味しいお魚と出会います。
海が近いから、という理由で片付けることもできますが、それ以上に理由があるはず。
「灯台=美食の場」へのシンボル化に励む人たちもいて、顕在化が出来るのではないか…

そういった疑問や仮説と共に、現地で灯台を活用している方々の事例も紹介しながら、灯台の可能性を“体験”“文化”“食”の三方向から掘り下げました。

モデル事業では、もっとユニークな・特色のある掘り下げ方をしていますが、

まずはその入口として、「自分の地域の灯台であれば、こういったことができるのじゃないかな」とか、

一般の人も「灯台をどう楽しめるか」を考えるきっかけになったなら良いなと思っています。

終わりに

本当は、登壇者の皆さん全員に6時間くらいもっと話してもらいたかった――というのが本音です。

事前の打ち合わせで交わした言葉の一つひとつが宝物であり、企画の中で削らざるを得なかった部分にも、たくさんの示唆が詰まっていました。

今回のイベントでも個人的な反省点は多々ありますが、それ以上に、多くの気づきと手応えを得ることができました。

ひとまずイベントは大成功と、ここでは言わせてもらいたいです。

観覧者や登壇者の皆さまからも温かい言葉をいただき、

この場を借りて、改めて感謝を申し上げます。皆様ありがとうございました。